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interview

思いみたいなものは、生の舞台やその場にいないと見えないのかなと思います。

2024年2月28日

ありのままでかっこつけていない芸人の魅力を映画に

ナイツの塙宣之が初監督した「漫才協会THE MOVIE 〜舞台の上の懲りない面々〜」(3月1日公開)は、漫才協会の芸人たちが舞台の素顔を紹介するドキュメンタリー映画だ。

漫才協会とは、主に東京で活動する漫才師が加盟する、漫才公演の開催、漫才師の育成、広報を目的とする一般社団法人で、現在、塙が七代目・会長をつとめている。

映画に登場する漫才協会に所属する人々は皆、ユニーク。事故で片腕を失ってもなお舞台に立ち続ける大空遊平、離婚しているのに一緒に暮らし続けコンビを組み続けているはまこ・テラこ、その活動を誰も掴めていない謎の存在・高峰コダマなど、この人たちに会いに、劇場へ行きたいと強く思わせる。

同じ舞台に立ち、笑いを追求してきた塙ならではのまなざしがそこにある。価値観が変化していく現代社会で、漫才を劇場でやり続ける人たちへの塙宣之の思いとは。映画の撮影監督を、当サイトの発起人・仲野慶吾が担当した縁でインタビューが実現した。

 

映画で漫才協会を大々的に宣伝できるんだ

――映画を撮ることになったきっかけを教えてください。

「漫才協会の映画を撮ることが決まって、監督をやりませんか、と誘われたのは2年くらい前でした。まだ内容も何も決まっていませんでしたが、面白そうだし、とりあえずやってみて、内容は撮りながら考えていこうと思って引き受けたものの、当時、僕はまだ協会の副会長で、監督とはいえ、協会的には中心人物ではなく、どういう立ち位置で映画を撮るのか曖昧だし、その状況をほかの会員はどう思うのかは気になりました。ところが、映画を撮っている途中で僕が会長になりまして、会長として漫才協会の映画を作るというモチベーションががぜん上がりました。会長になったことで、監督という立場にも少し意味が出てくるような気がして。映画で漫才協会を大々的に宣伝できるんだと思うと撮影にもエンジンがかかりました」

 

――個性的な漫才協会の方々がたくさん出てきます。いわゆる物語ではないので脚本はないのでしょうか。塙さんは取り上げたい人のセレクトなどをされたのでしょうか。

「台本は作家さんに、撮影はプロの方にお任せし、僕は何もしていないですね。事前に打ち合わせをしただけです。そこで誰を取り上げるか、彼らにどういう質問をするか、などをじっくり話しました。ベテランと若手と中堅と幅広い層から、悲しい出来事や解散を経験しながらも漫才をやり続けている人たちをピックアップして、芸について語ってもらうよりは、人としておもしろいところを見せたいと思いました。お笑いの技術や哲学などを語るのではなく、なんでそうまでして漫才をやっているのかという根本的な問題を話してほしいと。大御所の方々には、貴重な歴史を伺いたかったので、僕が聞き手になっています」

――たとえその人の芸を知らずとも、ご本人たちが面白くて、その人の芸が見たくなりました。素顔はネタではなく、すべてノンフィクションなんですよね。

「そうです」

 

――塙さんが東洋館(浅草フランス座演芸場東洋館)のステージを掃除するシーンがあります。あれも普段やっていらっしゃることなのでしょうか。

「あそこだけはフィクションですね」

 

――若手の頃は掃除からはじめるという修業的なことがあって、それを改めてやってみたのかと思いました。

「一度も東洋館の掃除をしたことはないです。掃除は劇場のスタッフの方々がやってくれていると思います」

 

――あれは演技ですか。

「あれは演技なのかな……無ですね。無の境地でやっていました」

 

映画づくりと漫才の共通点はたくさんのピースをはめていくこと

――映画を見て、芸人さんはネタのおもしろさだけでなく、私生活から面白くないといけないものなのかとも思いました。

「そうかもしれないですね。映画ではネタよりも本人の面白さが際立っていましたよね。昨今、テレビにクズ芸人というような人たちがよく出ていて、彼らがなぜ需要があるかというと、クズだからということだけではなくて、人間味があるからですよね。ありのままでかっこつけていないからかなと思います。そういうほうが僕は芸人ぽい気がします。かっこつける人は、自分を演じちゃっているから、どちらかというと役者寄りなのかもしれない。お笑い芸人は、あんまり器用じゃないけれどそれでもやっているみたいな人たちが多い気がします。芸人がただネタを作っただけで面白いかっていうと、わからないですよね」

 

――映画監督をやってみて面白かったことはありますか。

「僕がドラマに出演したとき面白かったのが、撮影の最中はどうなっているかわからなかったものが、放送を見て、たくさんのピースがこうハマったのかと驚いたことなんです。映画づくりも同じで、いろいろな素材を編集作業で当てはめていくことが面白かったですね。編集自体はプロのスタッフがやってくれるわけですが、僕も撮った映像を全部見て、どこをどの順番で使うか編集作業で話し合いながら組み合わせていきました。漫才やトークなど、すべてにおいて僕は、頭の上に浮かんでいるボケやアイデアをどう組み合わせたらお客さんに喜んでもらえるか、毎日考えています。そういうことは映画でも同じなのかなという気がしました」

 

――素敵な構成になっていたと思います。みんなが輝いていました。「愛がある」と映画に出ているはまこ・テラこのテラこさんが言っていました。

「結果的にみんなが輝いて見えたとしたらよかったです。試写を見て、良かったと言ってくれるかたが多いんですよ。水道橋博士がすごく褒めてくれて、X(旧Twitter)で宣伝してくれて、その流れから東野幸治さんも見て、めちゃくちゃ面白がってくださって、ありがたいです」

 

東洋館をもっと異空間にしたらいいのではないか

――映画を見て、東洋館の寄席にもお客さんが来るといいですね。取材の前に漫才協会が東洋館で開催している「漫才大行進」を拝見したら、出囃子が笠置シヅ子の歌になっていました。

「以前は昔ながらの出囃子だったのですが、2ヶ月に1回行っている理事会で、東洋館をもっと異空間にしたらいいのではないかというアイデアがあって、でも一気に変えるとお客さんに戸惑われるから、とりあえず、出囃子を、エノケンとか笠置シヅ子とか昭和の東京の雰囲気のある曲に2月から変更してみました。これからも、セットを新しくするなど、いろいろ変えていこうと思っています。いまは、当日、劇場でしかチケットが買えないのですが、プレイガイドで前売りの指定席が買えるようにできたらいいなとも思っているんですよ。映画が公開されれば、しばらくは、劇場に足を運んでくれるかたも増えると思いますが、それが継続するにはどうしたらいいのか、誰が出ていても満員になるようにできることが理想です。ただ、お客さんが少なくても、修業にはなるんですよ」

 

――舞台は修業の場でもあるんですね。

「とりわけ東洋館は、芸人をはじめて1年めの若手から出られる稀有な劇場です。敷居が高くない分、基本的にはお客さんの前での修業の場ということでもあります。僕らもネタを試すこともできる場だと思っています」

 

――ナイツさんがはじめて立った劇場は東洋館ですか。

「はじめて立ったのは、マセキ芸能社主催の公演で、ライブハウスだったと記憶します。そのあと、2002年に漫才協会に入って東洋館に出ました。何をやったかは覚えてないですが、お客さんはガラガラでした。浅草の街がいまとは全然違って、街自体に人が少ないし、治安も良くないし、ピンク映画館がたくさんあって。近くのドン・キホーテが大勝館という小屋でそこにも人は入ってなくて。ボーリング場もガラガラでした。東洋館の寄席は平日の午後という時間帯もあって、いつも10人入ればいいほうで、いま以上に高齢者が多かったんですよ。おじいちゃんが寝に来ていましたから。のいるこいる師匠が出たときだけは30人以上入るくらいで、立ち見なんてありえなかったですよ」

 

――今日の「漫才大行進」は立ち見で活況でしたね。

「この20年で街がだいぶ雰囲気が変わりました。近隣の店が変わり、すぐそばにつくばエクスプレスの駅もできてアクセスもよくなりました」

 

――いま、取材を受けていただいている喫茶店(ブロンディー)は思い出の場所だそうですね。

「劇場から1番近い喫茶店なんですよ。いまは、ラジオのレギュラーが毎日あるから、あまり来られないですが、例えば演芸ホールが1時で、東洋館が4時からの場合、同じ浅草でも空き時間がものすごくあるので、ここが時間を潰すのに、ちょうどいい場所で、ここに来てネタを作っていました。心地よいので、取材があればここで受けていました。内海桂子師匠とは、10年前くらいにここで篠山紀信さんに写真を撮ってもらったことがあります。ここにも映画のポスターを貼ってもらわなきゃ(*あとで、お店の人がチラシを貼ってくれました)」

 

――東洋館は井上ひさしさんや北野武さんが若い頃活動されていた場所です。劇場のなかで好きな場所や思い出の場所はありますか。

「特にないですね。よくそういう質問をされるのですが、昔、住んでいた家にはなつかしさがあるけれど、僕らからしたら、劇場は職場――会社みたいなものだから、会社で好きなデスクの場所はありますかと聞かれても、とくにないじゃないですか。出社して、仕事して、帰る、その繰り返しの場所なんです」

 

 

芸人は出来事を笑いに昇華できる

――師弟関係が残る漫才の世界で、塙さんも若い世代に言葉を発したり心構えを背中で見せたりしています。例えば、映画のなかでは、協会の野球部活動中に、後輩にあることに関する注意をしている姿が印象的でした。

「そういうのも関係性によりますよね。彼――コンパス中島和彦とは長いですからね。よく相談を受けるし、うちにもしょっちゅう来るので、若手のなかでも関係が濃いんです。若手と言っても40代ですけどね」

 

――服装的に、すごく若いのかと思いました。

「そうなんですよ、僕が怒ったのは、それもあるんですよ。もうそういう年齢じゃないじゃんみたいなことなんですよね」

 

――それで厳し目に。

「厳し目でした? そんなつもりはなかったのですが……(笑)。ふだんから考えていたことがちょっとしたきっかけで出てしまったのかな。話し方には気をつけているんですけどね、会長ですから」

 

――昨今はコンプライアンスがあって以前ほど他者に厳しいことを言えない時代になりました。

「たとえ言っても、中島や漫才56号の堀江俊介なんかは、笑いに昇華できるのでしょうけれど。芸人が一般の人と違うのは、何かあっても笑いに昇華できることなんですよ。だから、何か言われても美味しいと思える。でも、漫才協会の事務局員の方などへの態度は気をつけないといけないと思います。芸人は厳しく言われるのは当たり前で、僕らもそうでした。桂子師匠に舞台上で、『全然おもしろくない』と言われて、それに返すと笑いが起きることがショーみたいになっていたんですよ。それらをすべてパワハラと言われちゃうと困っちゃいますよね」

 

――そういう意味でも、舞台でのネタはちょっと毒のある、いまのテレビでは言えないようなことが言えるのかなとも思います。

「そうなんですよね。テレビでは事前に、あまり言わないでくださいと釘を差されます。例えば生放送でなければ、今日、寄席でやったネタも多分カットされちゃうと思うんです。もちろん、ある人物や出来事を軽視していじることはよくないですが、とてもリスペクトしている人のことを笑いに昇華したいという思いがあれば、存分に振り切ることができるはずで。それをテレビは気にし過ぎて、自主規制してしまうんですよね。どういう思いでやっているのかが伝わればテレビでもできるはずなのに。ただ、それを若手が勘違いして、なんでもかんでもタイムリーなことをいじるのはよくないと思います」

 

――思いがあるかないかが重要なんですね。

「いまや、思いは、実際に見てない人には伝わらず、一部を文字化して切り取られ、それがSNSで拡散して炎上してしまう。思い、みたいなものは、舞台とかその場にいないと見えないのかなと思います」

 

 

塙宣之 Nobuyuki Hanawa

2000年、漫才コンビ・ナイツを結成、内海桂子の弟子として活動する。2003年漫才協団(現・漫才協会)・漫才新人大賞受賞。2008年お笑いホープ大賞THE FINAL優勝&NHK新人演芸大賞受賞。M-1グランプリでは08年、09年、10年3年連続で決勝進出。THE MANZAI2011準優勝。07年、史上最年少で漫才協会の理事に就任し、18年にはM-1グランプリの審査員をつとめる。

落語芸術協会、三遊亭小遊三一門として寄席でも活躍。平成25年度文化庁芸術祭 大衆芸能部門 優秀賞、第39回浅草芸能大賞大賞を受賞(2022年度)した。

「漫才協会THE MOVIE 〜舞台の上の懲りない面々〜」で初監督

 

 

 

漫才協会THE MOVIE 〜舞台の上の懲りない面々〜

監督:塙宣之

配給:KADOKAWA

2023年12月現在、124組、215名が所属する漫才協会の芸人たちから、ナイツ、U字工事をはじめ、青空球児・好児、おぼん・こぼんといったレジェンド芸人、錦鯉などのテレビで人気の芸人、さらに協会外からも爆笑問題、サンドウィッチマン、ビートきよしなど、数多くの芸人たちがスクリーンに登場。
ナレーションを小泉今日子、ナイツ・土屋伸之が務めるほか、エンディングテーマをザ・ハイロウズ、題字とお目付役は漫才協会外部理事の高田文夫と、豪華な布陣が担当した。

『漫才協会 THE MOVIE  〜舞台の上の懲りない面々〜』公式HP https://mankyo-the-movie.com/

3月1日 ロードショー

北海道  札幌市  サツゲキ            3/1(金)〜

宮城県  仙台市  チネ・ラヴィータ        3/22(金)~3/31(日)

山形県  山形市  ソラリス            3/29(金)~

山形県  山形市  MOVIE ON やまがた          4/5(金)~4/18(木)

山形県  鶴岡市  鶴岡まちなかキネマ       4/5(金)〜4/18(木)

栃木県  小山市  小山シネマロブレ        3/29(金)~4/11(木)

栃木県  宇都宮市 宇都宮ヒカリ座         4/12(金)~4/25(木)

東京都  有楽町  角川シネマ有楽町        3/1(金)~

東京都  池袋   シネマ・ロサ          3/1(金)~

神奈川県 厚木市  あつぎのえいがかんkiki      3/29(金)~

愛知県  名古屋市 伏見ミリオン座         3/1(金)~

愛知県  豊橋市  ユナイテッド・シネマ豊橋18     3/1(金)~

福井県  福井市  福井メトロ劇場         4/13(土)〜4/26(金)

京都府  京都市  アップリンク京都        3/1(金)~

大阪府  梅田   シネ・リーブル梅田       3/1(金)~

兵庫県  神戸市  シネ・リーブル神戸       3/1(金)~

広島県  福山市  シネマモード          4/12(金)~4/25(木)

福岡県  福岡市  ユナイテッド・シネマ福岡ももち 3/1(金)~

福岡県  中間市  ユナイテッド・シネマ なかま16   3/1(金)~

佐賀県  佐賀市  シアターシエマ         4/19(金)〜4/25(木)

鹿児島県 鹿児島市 ガーデンズシネマ        3/25(月)~3/30(土)

(公開情報は随時更新 https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=mankyomovie

 

漫才協会は、「漫才大行進」東洋館で毎月1日~19日まで東洋館でお笑い寄席を開催している。

東洋館 https://www.asakusatoyokan.com/

漫才協会 http://www.manzaikyokai.org/

 

 

 

撮影:仲野慶吾

取材、文:木俣 冬

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