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シリーズ:劇場の中の人に会いに行く  令和と劇場

第6回 THEATER MILANO-Za 支配人 枝村義夫さん

2023年5月3日

東洋一の歓楽街から発信できるオリジナル演目を目指します

2023年4月にオープンした東急歌舞伎町タワー。そそり立つ地上48階地下5階、高さ225メートルの複合高層ビルの6階にTHEATER MILANO-Zaはある。タワーのなかはホテル、映画館、ライブハウス、アミューズメント施設や飲食店などにぎやかで、外国人客の需要も見込めそう(羽田と成田空港への高速バスの停留所がある)。目の前には広場もあり、欧米の劇場街のようなものが日本にもついにできそうなポテンシャルを感じる場である。開発、運営に携わった枝村義夫さんに話を聞いた。

 

Yoshio Edamura

東急レクリエーションでシネコンの開発、運営に携わり、現在、株式会社TSTエンタテイメント運営事業本部 劇場運営部部長

 

 

演じる側と観る側が同じ情熱を互いに共有できる一体感の実現

――THEATER MILANO-Zaこけら落としが間近です(5月6日から「舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド」が上演)。今のご心境を教えてください。

「こけら落とし公演を前にひじょうにわくわくしています。これから日々、多様なお客様にお越しいただき、感動をはじめとしてさまざまな感情を持ち帰っていただくことが繰り返されていくと思うと、大変うれしく感じます。これは多分、お客様が舞台を見る前のわくわくと同じような気持ちです。この気持ちをずっと持ち続けたいですね」

――オープン前に内覧が行われましたが、その反応はいかがでしたか。

「タワー全体の内覧会では数千人、MILANO-Za単体で行った内覧会ではプロモーターやマスコミのかたなど約300名にご参加いただきました。メディア向けの内覧会でも280媒体ほどお越し頂き、TVでは全チャンネルで取り上げて頂きました。反応としては、劇場部分へのリアクションは好意的で、とくにこの劇場の特徴であると自負する、舞台と客席の距離の近さや客席から舞台の見やすさに関して、全体的にお褒めのお言葉を頂戴致しました」

――私も拝見し、3階席最後方やバルコニー席からもわりと見えるなという感想を持ちました。

「そうなんです、まさにその表現が正しいと思います。例えば、バルコニー席はよく見えないのではないかという不安を感じるものですが、当劇場に関しては、実際、座ってみると意外と見えるという、ぎりぎりのなかのベストを探りました」

――設計者はどなたですか。

「久米設計さんです。日本青年館ほか、いろいろなホールを手掛けた実績のある会社です。そこに東急シアターオーブを設計された方が外部のコンサルとして入り、協力し合って手掛けて頂きました」

――枝村さんが、THEATER MILANO-Zaを運営することになった経緯を教えてください。

「この劇場はTSTエンタテイメントという会社の運営で、それは東急、ソニー・ミュージックエンタテインメント、東急レクリエーションの合弁会社です。私はこれまでレクリエーションにおりまして、109シネマズなどシネコンの開発運営に20年ほど関わりました。新宿TOKYU MILANO跡地の東急歌舞伎町タワー開発にあたり、初期段階から携わり、地下のZepp SHINJUKUとTHEATER MILANO-Zaというライブホールと劇場を共に見てきて、最終的に劇場の専任となりました。観劇は好きですが、劇場の運営に関わることははじめてです。映画館と劇場は同じ箱物ですが、180度違うと感じていて、自分にとって新たなチャレンジと思っています」

――劇場を作るうえで何を大事にされましたか。

「劇場と映画館の決定的な違いは、ナマモノかそうでないかです。劇場はナマモノで、毎日役者さんが演技をして、その瞬間にしか見られないものをお届けするもので、映画館は公開期間中、日本中で同じものを見ることができます。どちらも甲乙はつけられないですが、舞台とは極めて希少性の高いもので、それを大事にしているお客様の気持ちを大切にしたいと考えています。演じる側と観る側が同じ情熱を互いに共有できる一体感の実現に向けて舞台から客席の一番後ろまでの距離をできるだけコンパクトにしました。劇場内の壁やロビーまわりに設置したLEDの間接照明は色調を変えられるので、上演作品に合わせた照明の演出も楽しんでいただけます」

――照明のほかに劇場の仕掛けは何かありますか。

「劇場のデザインコンセプトとして『都市の中の劇場広場』✕『抑えられない衝動』というワードを掲げています。ロビーの床が石畳を思わせるタイルなのは意図的なものです。劇場は6階にありますが、地上と同じような感覚をもってほしいという気持ちです。中世の時代より、路上は新しいエンターテインメントが生まれる場であり、自由な表現の場でもありました。人々はそれを取り囲み、興じてきました。その流れをくむという点では床のタイルは原点に立ち返るような意味です。合わせて各所に飾ってあるアートもストリートを意識しています。アーティストの『抑えられない衝動』と演者や観客の『抑えられない衝動』が都市の中の劇場広場で上手く融合し、大きな潮流になっていけば良いなと思っております」

――演目のセレクトはどのように行われていますか。

「しばらくは貸館として、オープニングシリーズはBunkamura制作の『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』『パラサイト』『少女都市からの呼び声』と続き、その後も劇団☆新感線等の公演が予定されています。作品選定は、編成担当チームの会議で行っています。東急歌舞伎町タワーの全体コンセプトが『好きを極める』ですので、お客様の様々な『好き』を刺激し、好きの幅がさらに広がっていくような環境を作っていけるものを意識しながら選定しています。たとえば、『パラサイト』の場合、映画が好きなかたが映画『パラサイト』が好きだから舞台版も見てみようと思って見たら、演劇のおもしろさを知って、もっと別な演劇も見てみようと思っていただけるような、ひとつの『好き』がどんどん広がっていくような状況を作りたいと考えています。『エヴァ』はまさにいい題材で、上演中、東急歌舞伎町タワー内の映画館で庵野秀明監督の過去作品の特集上映を、地下のライブホールでは、テレビ版、旧劇場版の主題歌を歌っている高橋洋子さんのライブを行い、飲食店ではコラボメニュー、ホテルではコラボルームを用意して、エヴァが好きな人が歌舞伎町タワー内で、接点のなかったものにもエヴァを媒介に触れられるように企画しています。このような上演演目と建物全体のコラボは年に2、3回は実施したいと思っています」

 

THEATER MILANO-Zaオープニングシリーズ

 

ニューヨークのタイムズスクエアをイメージ

――見る側からの劇場のほか、使う側の魅力にはどのようなものがありますか。

「1階席は椅子が全席取り外し可能で、花道やランウェイを作ることやセンターステージを作ることも可能です。客席からフライングができるよう、3階席の躯体にフックを常設しています。水も流せます。また、舞台床を外すことができるというアナログならではの良さもあります。イマジネーションを発揮してハード面を様々に活用していただき、観客の度肝を抜いてほしいですね。

――想定する客層を教えてください。

「新宿区の上位計画に、『エンターテイメントシティ歌舞伎町』があり、歌舞伎町シネシティ広場と東急歌舞伎町タワーを中心に新宿歌舞伎町をエンタメシティにしたいと考えています。イメージとしてはニューヨークのタイムズスクエアです。今後、周辺の建物も再開発されるにつれ、劇場街として、国内外問わず、いろいろな人に足を運んでもらう先導役になれたらいいなと考えています。コロナも落ち着いてきてインバウンドがじょじょに増えていますし、ホテルを筆頭に歌舞伎町タワーを利用されるかたも多いでしょうから、そのかたたちにも楽しんでいただけるものは意識していきたいと思っています。例えばノンバーバル的な演目に力を入れていきたいし、海外でも人気の高い日本のアニメや漫画を扱った作品もTHEATER MILANO-Zaには合うように思います」

――歌舞伎町という街とはどのようにつきあって行こうと思っていますか。

「なかには歌舞伎町というロケーションにポジティブな印象のないかたもいらっしゃるとは思いますが、我々はポジティブに捉えています。東洋一の歓楽街とも言われる街ですし、老舗の劇場からライブハウス、寄席など様々なハコ物があり、渋谷など周辺の街へのアクセスも良く、歌舞伎町を中心に東京をうまく遊び倒してもらえる気がします。エヴァは歌舞伎町タワー全体のコラボですが、作品によっては地域連携も考えていて、『パラサイト』は新大久保と連携できないかなと構想中です。テナントから街まで、いろいろな広がりが作れるような場にしていきたいですね」

EVANGELION KABUKICHO IMPACT

――3年後、10年後のビジョンを教えてください。

「現状、貸館メインではありますが、将来的には自主企画で演目を立ち上げたいと考えています。東洋一の歓楽街といわれるこの街から発信できる演目を目指しています」

 

THEATER MILANO-Za

令和4年(2023年)4月オープン

客席数:907席(基本構成)
1階席:612席、2階席:148席(バルコニー50席)、3階席:147席(バルコニー18席)
(車椅子エリア含む)
最大1088席まで増設可

〒160-0021
東京都新宿区歌舞伎町一丁目29番1号
東急歌舞伎町タワー6階

公式サイト

 

 

TOPICS1 SIDE COREによるストリートアート

絵画やオブジェなどアートが館内に飾ってある。とある場所には金の鼠が。これはアーティスト・SIDE COREの作品で、この鼠は現在、都内に12体配置されているそうで、コンプリートする楽しみもある。

 

 

TOPICS2 線路の見えるZa Bar

3層になった劇場の1階にあるZa BARの窓から、西武線とJRの線路が見下ろせる。「内覧にいらしたかたが、この景色は何ものにも替えられない、とおっしゃっていました。西武線と山手線と中央線がクロスして見えるところは大きなインパクトと思っています。東急線ではないけれど、そこは他社でも構いません」と枝村さん。

 

 

取材・文、鼠撮影:木俣 冬

 

 

 

 

 

 

 

 

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