劇場の中の人に会いに行く 令和と劇場
第3回 明治座 専務取締役・三田光政さん
2022年11月22日
150年もの歴史ある劇場で三銃士は新たな時代を切り拓く
「三銃士」という名前で演劇をプロデュースしている3人がいる。明治座の専務取締役・三田光政さん、東宝演劇部のプロデューサー・鈴木隆介さん、劇団☆新感線の制作などを行うヴィレッヂの浅生博一さんと同い年の3人が集まって企画した最初の公演は20年「両国花錦闘士」。岡野玲子さんの人気相撲漫画を原作に、相撲部屋と力士たちの熱量を舞台で再現、第2弾は大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも注目された中川大志の初座長公演「歌妖曲〜中川大志之丞変化〜」で昭和の芸能界を光と影を映し出す。
明治座といえば、シニア層を対象にした演歌歌手のコンサートと芝居の2部構成のような演目を上演している印象があったが、近年、新たな顧客を呼ぶ企画も着々と仕掛けている。三銃士企画もそのひとつ。明治座が150周年、劇場が新しくなってから30年という節目に当たる2023年を前に、新時代の制作者たちの展望を「三銃士・長男」と言われる三田さんに聞いた。
Mitsumasa Mita
1980年、東京都生まれ、2003年電通入社、2012年明治座入社。宣伝部長、総務部長、制作部長などを経て、現在、専務取締役。
昔ながらのお客様を大切にしながら、新しいお客様を迎えていく
明治座に対する世間の印象がだいぶ変わってきていると実感していると言う三田さん。それは漠然とした印象ではなく可視化されているのである。例えばーー。
「先日、“推し劇場”というランキングがあり(NHK「あさイチ」)、そのなかで明治座が10位にランクインしていました。昔なら、若い人や演劇ファンに明治座という選択肢はなかったところ、今や宝塚劇場や梅田芸術劇場や帝国劇場に混ざって明治座も入ってきて、若い人たちにも認知度が高まっています。もともと、年末、る・ひまわりさんと2.5次元系の芝居を上演するなどして、若いファンを持つ方たちを積極的に起用してきたという歴史はありますが、現在、それを加速させているところです」
「昔ながらのお客様を大切にしながら、新しいお客様を迎えていく。まさに今、変化の時です」と強く言う三田さん。長い明治座の歴史を踏まえ、現在行っていることとは新たな顧客を呼ぶことだ。
「明治座は来年創業150周年を迎えます。それだけ歴史のある劇場です。戦前からは歌舞伎を中心とした興行でした。戦後は、新国劇、新派を主として上演し、来年30年目になる新しい劇場になってからは、演歌歌手のかたや時代劇スターのかたを中心にした演目を主としてやってきました。そのためシニア層の劇場というイメージが強く、今はそこから新しい時代への転換期となっています。もちろん、演歌歌手やいままのファンのかたをしっかり守りながら、年間で何回かチャンレンジをしていく月を設けるように致しました」
2020年から世界に蔓延したコロナ禍によって公演が中止になることもあったが、それも手伝ってラインナップに若い客層向け作品を加えることに加速度が増したと前向きに捉える三田さん。“三銃士”企画はその新規層へのアプローチ企画のひとつだ。
「明治座のイメージを少し変えることを考えていたとき、同い年、同じ業界の飲み仲間であった浅生君と鈴木君と新しいことをやってみようということになり、まず第一弾として『両国〜』を作りました。鈴木君が東宝で長らくやってみたいと温めていた企画で、それを明治座でやってみることにしたのです。キャストの変更やコロナ禍を乗り越えて、非常にいい作品に仕上がりました。『歌妖曲』に関しては中川大志さんにかなり前からお話ししていた企画です。ほぼ初舞台の状態で出ていただくので彼を中心に脇を固め、『リチャード三世』をベースにした、昭和の音楽業界を舞台にした作品を作りました」
中川大志さんが昭和の歌謡界のスターに扮し、華やかな活躍の裏にあるドロドロした人間の欲望が渦巻く様を描く昼ドラのようなオリジナルストーリーで、中川さんは難役を演じている。その演技力もさることながら、歌がうまい。昭和歌謡風のオリジナル楽曲をみごとに歌っているのだ。
「三銃士のひとり、浅生君は昭和が好きで、彼は昭和の企画ばかり提案するんです(笑)。その点、明治座は昭和歌謡の守り手のひとつですから、昭和の企画にはうってつけです。『歌妖曲』は音楽の和田俊輔先生が、昭和時代のコードを使って昭和歌謡ふうの曲を作ってくださいました。和田さんはふだん、こういう曲を作らないそうで、貴重な楽曲になりました。昭和歌謡は歌うことが難しく、歌唱力が問われるようです。その難しい曲を歌いこなす中川さんはすばらしいですね。中川さんはボイトレをかなり前からやったうえで臨んでくれたとはいえ、ここまでになるとは驚きです」
フットワークは軽く、いいとこどりを狙う
専門外の歌もやってのけた中川さんを支えるひとりが、歌が本職の中村中さん。人気歌手役として堂々と歌い上げる姿に惹きつけられる。
「中村さんも歌のプロとはいえ、昭和歌謡が専門ではないにもかかわらず、今回の舞台用に楽曲も作ってくださいました。劇中歌は基本、脚本家の倉持裕さんが作詞して、和田さんが作曲してくれていますが、一幕の最後の曲は、中さんが作詞したものです。これがじつに情感のあるものになりました」
若い層に人気の中川さんは今年大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)に出てシニア層にも認知度を高めた。『歌妖曲』には徳永ゆうきさんなども出てシニア層が観ても楽しめるし、若い層が観ても楽しめる。三田さんは他の演目でも「いいとこどり」を意識している。
「ひとつの成功パターンとしては、コロッケさんの座長芝居で七海ひろきさんと組んでみませんかと提案して作った『令和千本桜』があります。今までのファンと新しいファンとの組み合わせ、それにショーもついた作品で、コロッケさんのショーも七海さんのショーもあって、両方のファンの方に喜んでいただき、年齢層の違うお客様に一体感のあるものになりました」
明治座らしさというとショーとお芝居の2本立て興行がある。
「コンサートとお芝居と二つやることで非常に見応えのあるものになり、お客様にも満足していただける企画です。ももいろクローバーZさんにもコンサートとお芝居の2本立てをやっていただきました。今回の『歌妖曲』もまさにそのいいとこどりになっています。
コンサートと芝居の2部構成ではなく、芝居のなかにコンサートの要素を盛り込みました。松竹さんや東宝さんと違って、莫大な不動産を持っていたり映画会社がついていたりするような環境下にない、単独の劇場として、どういう企画を立案していくか模索しています。
逆に言えば、小さいぶん舵が切りやすい。時流を見ながら形態を変えしぶとく生き残ってきたからこそ150年残ったのかなと思います」
フットワークを軽くできるからこそ、40代、働き盛りのプロデューサー3人の集合体を“三銃士”と打ち出して公演を行うというユニークな企画も成立したのだろう。
「鈴木君が所属する東宝さんには錚々たるプロデューサーの方々が、浅生君が所属するヴィレッヂには細川展裕さん、柴原智子さんという名物プロデューサーがいますし、その方たちと比べたら我々はまだまだ若輩ですから、毛利家の3人ではないですが、一本では細く弱いけれど3本束になればなんとかなるのではないかという気持ちで“三銃士”と名付けました。今の日本の演劇界は、作品主義というよりは企画の力はスターシステムに負うことが多いので、誰々プロデュースというよりも、“三銃士”企画としたほうがわくわく感が出るかなと考えました。私はかつて電通に10年間いまして、ブランドとパッケージングは大事であることを学んできましたので、そのとき培った感覚も生かしています。興行というのものはつねに勝ち続けるわけにはいかないものですが、多少のチャレンジをしながら、しっかり回収するものはしていこうというコンセプトになっております。作品主義とスターシステムの中間――これもまたいいとこどりを狙っていきたいですね」
もともとチャレンジの気風を生かしながら
三銃士企画の第一弾「両国花錦闘士」は漫画原作。明治座は実はアニメや漫画原作ものも
早くからトライしていた。最初は2005年の『あずみ』。小山ゆう原作の人気漫画を黒木メイサ主演で派手な立ち回りを展開した。「当時はまだ2.5次元のワードもなく、“ネオ時代劇”とタイトルをつけてやりました。もともとチャレンジの気風はあるんです。最近はあちこちで漫画やアニメ原作の舞台を行っていますから、差別化するにはどうしたらいいか模索を続けていることろです」と語る。来年初頭には惣領冬実さんの人気漫画「チェーザレ破壊の創造者」をミュージカル化する。
「私が原作が好きで、舞台化は悲願でした。一度、コロナ禍で延期になりまして、今回、ようやくお披露目となります。世界発信できるコンテンツを目指しています。オーストリアでもフランスでもなく、イタリアで勝負をかける。明確にマーケティングしたうえで、選択した作品です」
明治座で過去使用したことがないオーケストラピットを「チェーザレ」で初めて使用するのも注目ポイントだ。
明治座のプロデューサーは今、10人くらいいる。三田さんは統括として各企画をチェックする立場だがミュージカル『チェーザレ破壊の創造者』は自身の悲願なのでキャスティングまで担当したと意気込む。
「経営の仕事もあってグループ会社含め数社の取締役も兼ねているので、完全に現場にベタつきには正直できないことははがゆいですが、三銃士企画は信頼できる2人の仲間と一緒にやっていますし、若手のプロデューサーたちにもそれぞれに頑張ってもらって、上の世代をリスペクトしながら、新しいものに挑んでいきたいと考えています」
明治座
明治6年4月、喜昇座として開場 明治26年に明治座と改称する。
平成5年3月、現在の明治座開業
過去5回の災害、焼失を経験し、その度に再建、再開場している。
1階席〔建物3階〕 834席(914席)2階席〔建物4階〕 390席 3階席〔建物5階〕 144席から成る。
3階には明治座横丁という物販コーナーがありお土産ものやお菓子類や衣料雑貨などを販売している。
ほかに食堂、喫茶があり幕間を過ごせる。
公式サイト https://www.meijiza.co.jp/
TOPICS1 明治座特製弁当やカフェの展開
明治座の演目に合わせたお弁当やコラボドリンクなどのカフェメニューが幕間の楽しみのひとつ。SNS 映えするものを公演ごとに考案するのもプロデューサーの仕事のひとつだそう。「歌妖曲」では浅生さんが「カフェ歌妖曲」を担当した。
演目とは直接関係ない「鬼滅の刃」のアイスクリームショップ展開も行うなど、出版社やメーカーなどといい関係を結んでいる。
TOPICS2 150周年記念、2023年のラインナップ
1月『チェーザレ破壊の創造者』、2月日本テレビ企画・製作の『巌流島』とあって、3、4,5月はお祝い月間、3月は松平健、檀れい、コロッケ、久本雅美を迎え、気鋭の作家・細川徹が明治座初参加する、明治座創業150周年記念前月祭『大逆転!大江戸桜誉賑』というこれもまたハイブリッドな試み。24年の2月まで150周年企画は続く。ファイナルも豪華企画を準備中。
取材、文、撮影:木俣 冬